17 ウトガルドへの遠征〜後半

トールたちは、ひたすら東に東に進んだ。時間は昼の十二時になり、トールたちは大きな平野に着いた。大きな平野の真ん中に、物凄く大きな城があり、頂上は天に届くほど高く、鉄の門ががっちり閉まっていた。トールは、鉄の門を開けようとしたが、これっぽっちも動かない。幸い鉄格子の目が粗かったので、トールたちは、その隙間からもぐりこむ事が出来た。

すると、大勢の巨人が集まっている広間にたどり着いた。どの巨人も、めちゃくちゃ大きく、スクリーミルが可愛く見える。そこにはウトガルド・ロキ王がいて、トールたちは王座の前に出て挨拶した。するとウトガルド・ロキ王は、白い歯を見せて、にやりと笑いながら言った。

「旅の様子は聞く必要は無い。そこにいる若造はアースガルドのトールと見た。ところで君たちは、何か得意な技はないかな。何でもいいぞ。ここには、特技の無い奴は一人も居ないぞ。」

ロキは「俺は早食いが得意だ。」と言った。ウトガルド・ロキはにやりと笑い、ロギというものを呼び、ロキと早食いを競うように命令した。ルールは、桶の中に入っている肉を、早く平らげたほうが勝ち。

ロキは物凄いスピードで肉を食べたが、ロギはロキよりも早く食べて、おまけに骨や桶までも口に入れた。誰がどう見てもロギの勝ちであった。

ウトガルド・ロキは、農民の息子チアルフは何が出来るんだ、とたずねた。チアルフはかけっこが得意と言った。「それは値打ちのある技だ。お前はきっと早いんだな。早速試そう」とウトガルド・ロキは言い、フギという名の少年を呼び、チアルフとかけっこをしろと命令した。

一回目の競争が始まった。しかしチアルフはぼろ負けする。「確かにお前は早いが、フギに勝つためにはもう少し努力しないといけないぞ。」とウトガルド・ロキは言った。そして二回目も三回目もあっさり負けてしまう。

ウトガルド・ロキ
 「トール、君の武勇伝はたくさんあるが、今日はどんな技を見せてくれるんだ。」

トール
 「酒の飲み比べに挑戦しよう」

ウトガルド・ロキ
 「それは面白い。」

するとすぐに角杯が用意された。トールは角杯を見て、この勝負はイタダキだと内心思った。

ウトガルド・ロキ
「イッキできたら素晴らしい。二口で飲み干すものも何人かいる。しかし三口で飲めないものは、ひとりもいないぞ。」

トールはのどが渇いていたので、酒を飲み始めグイッと飲んだ。このくらいならイッキできると思って・・・。そして角杯をテーブルに置くと、酒はほとんど減ってなかった。これにはトールもオドロキ。

ウトガルド・ロキ
「中々素晴らしい飲みっぷりだ。だけど大したことないな。次の一口で飲み干すだろうとは思うが。」

トールは二口目に入った。前よりも気合を入れて、グイグイ息が続く限り飲んだ。しかし酒の水位は殆ど下がっていなかった。

ウトガルド・ロキ
「どうしたんだ、トール。手加減しているのか。それじゃあ三口目は、思いっきり大きく飲まないといけないよ。なんなら他の競技で勝負するか?」

怒ったトールは猛烈な勢いで、グイグイグイグイ息が続く限り飲んだ。酒はかなり減ったが、角杯にはかなりの酒が残っていた。


ウトガルド・ロキ
 「たいしたことないな。なんか別の技を試してみるか?」

トール
 「おうやるぜ!!しかしなんか変だな・・。アースガルドでは、もっと飲めたはずなのに。」

ウトガルド・ロキ
 「それでは何をやろうかな?そうだ、たいしたことないが、子供たちの間で流行しているゲームがある。わしの飼っている猫を持ち上げるのさ。簡単だろ。こんな子供っぽい遊びを持ち出して失礼だが・・・。」

トールは満身の力を込めて、猫を持ち上げた。しかし、一本の足がちょっと床に離れただけだ。どんなに頑張っても無駄であった。

ウトガルド・ロキ
 「お前はガキだなぁ。」

トール
 「なんとでも言え!!俺は本当に怒ったぞ!!俺と相撲をとってみろ。」

ウトガルド・ロキ
 「でもお前と対等に勝負できる相手はひとりもいないぞ。そうだ、わしの婆さんのエリを呼んで来い。婆さんと相撲で勝負だ。」

トール
 「ああぁん、なめんなよてめぇ。そんなヨボヨボの婆さんなんて一ひねりだ!!」

行司
 「ひがぁ〜〜し〜〜トール山。に〜〜し〜〜エリ川。はっけよーーい、のこった」

のこった。のこった。トールは婆さんを押した。しかし、この婆さん中々の強敵だ。押しても引いても、びくともしない。今度は婆さんがトールをぐいぐい押しまくった。婆さんアタックは強烈で、激しい取っ組み合いになったが、ついにトールは地面にひざを付けてしまった。

行司
 「エリ川の勝ちぃ。」

ウトガルド・ロキ
 「情けないな、婆さんにも勝てないなんて。」

いつのまにか空は赤く染まっていた。ウトガルド・ロキは、トールたちを広場に案内し、そこには一級品の酒と豪華な食事が、山のようにあった。素晴らしい酒を飲み、おいしい食べ物を食べ、一晩中宴会は続いた。

そして、夜が明けた――――。

翌朝、トールたちは目を覚まし、帰り支度をした。ウトガルド・ロキは、トールたちが帰ると聞くと、さっそく「お別れパーティー」をもうけた。昨夜の宴会と同様、豪華な料理が山のようにある。(ダブル宴会か。うらやましいな。)

やがて食事が済むと、彼らは帰ろうとした。しかし、ウトガルド・ロキは彼らを送ろうとしたとき、トールに向かってたずねた。

ウトガルド・ロキ
 「今度の旅の感想は?」

トール
 「プライドがズタズタだ。つまらない男だと思っているかもしれないが、そう思われるのが一番つらい。」

ウトガルド・ロキ
 「もう外に出ているから、本当のことを話そう。実は、わしは術を使って、お前たちの目を惑わしてきたんだよ、森の中で出会った最初のときから。そう、スクリーミルは、わしが変身していたのさ。リュックの紐は、魔法をかけていた。だから、リュックの中身を取りだすことは、絶対に不可能であった。お前がミョルニルでわしを殴ったとき、わしはすばやく「山」を替え玉にしたさ。そうでなきゃ、わしは即死だ。あの山をごらん。穴が三つ開いているだろ。それはお前が「山」を殴った跡なんだ。」

トール
 「えっ!!」

ウトガルド・ロキ
 「早食い競争の相手であったロギの正体、あれは「炎」なのだ。だから、すざましいスピードで肉を食ったし、炎だから桶も骨も簡単に平らげることが出来た。ロキの早食いには、わしも感動した。マラソン大会の相手であったフギの正体、あれは「思考」なのだ。足の速いチアルフも、「思考」にはかなわない。」

トール
 「おれはどう騙したんだ?!」

ウトガルド・ロキ
 「飲み比べしたときは、あまり酒が減らないように見えたが、あのときは物凄くおどろいたね。だって角杯の端は、海に通じていたんだから。つまり、海の水が減ったんだよ。人はこれを「引き潮」と呼ぶんだけどね。」

ウトガルド・ロキ
 「猫を持つゲームも行ったが、あの猫は普通の猫ではない。猫の正体は「大蛇ヨルムンガルド」だったんだ。ヨルムンガルドと言ったら、陸地をぐるりと取り巻いている蛇。片足が上がったときは、ギョッとしたよ、なんせ大地が揺れたんだから。」

ウトガルド・ロキ
 「婆さんの相撲だって、正直言って体が震えたね。なにしろ、お前が相手にしていたのは「老い」だから。どんなに強い人も「老い」には勝てないのさ。」

トール
 「よくも騙したな!!ぶっ殺してやる!!」

トールはミョルニルを振りかざし、ウトガルド・ロキを叩こうとした。しかし、あたりは美しい平野が見えるだけで、ウトガルド・ロキは消えていた。城も完全に消えていた。しぶしぶ、トールたちはアースガルドへ引き返した。そしてトールは決心した―――大蛇ヨルムンガルドを探すと。

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