スポーツと色彩〜後半

まず前半の内容を簡単に書きます。

チームプレイスポーツでは、両チームの区別がつきにくいと、 審判もプレーヤーも観客も、混乱してしまいます。 そのために敵味方をユニフォームの色で区別します。色は視覚の中で、 形や文字よりも認識しやすいです。そのため色は、物事の区別をつけるのに 、格好の手段です。企業(プロや職員など)では、自社のイメージを、 ユニフォームに託します。ユニフォームカラーは、企業のアピールやブラ ンドイメージを伝える手段になり得ます。

A: 個人スポーツか、チームプレイスポーツか?

B: 利益が絡むか、絡まないか?

これらの違いによって、ユニフォームカラーの使い方が変化することを 説明しました。しかしAの観点では、上手く説明できないスポーツがあるのです。 しかも皆さんが大変良く知っているスポーツです。

それは野球です。野球はもちろんチームプレイスポーツです。しかし野球は 色彩的観点で見ると、チームプレイスポーツの中で、非常に特異なスポーツ なのです。どこが特異なのでしょうか?

結論から言います。サッカーとは違い、ユニフォームの色が似 通っているのです。「プロ野球なら」と思われる方もいるかもしれま せん。プロ野球は利益が絡んでいるので、スポンサーをアピールす るために、様々な色が使われています。

話がややこしくなるので、ここからはプロのことは一切考えません。 つまり小学校や中学校,高校,大学,アマチュアを考えます。もちろん社会人野球の のように、会社とダイレクトに関係する団体も考えません。野球の特異点を言及 しにくくなるからです。

サッカーの試合を見ると、様々な色のユニフォームが溢れています。 赤、青、緑、黄、白、黒、オレンジのような派手な色のユニフォームが いっぱいあります。スポーツショップに行っても分かります。ピンクや紫のユ ニフォームがあっても、決しておかしくはありません。バレーやバスケ,ラグビーも、 サッカーまでは行かなくても、様々な色のユニフォームがあります。

さて同じチームスポーツである野球はどうでしょう?白,明るい灰色,うすい青など 、サッカーや他のスポーツに比べて、色の幅が非常に狭いです。甲子園を見たり、 スポーツショップを見てもそうです。赤や青のアクセントを利用している例もありますが、 サッカーに比べると色の幅かなり狭いはずです。

さて同じ団体スポーツなのに、どうしてこう違うのでしょうか?ここでは 俺の考えを書きたいと思います。

1.野球は選手の位置ががある程度固定されているから。

野球とサッカーの決定的に違う点はポジションです。 サッカーにもフォワードやミッドフィルダーなどがありますが、 しかしこれらのポジションは、複数いますし、誰がどの位 置にいるかは予想できません。ましてはサッカーは動き回る スポーツです。

野球の場合、ある程度ポジションに よってある程度位置が固定されています。 ピッチャーが外野に行くのは考えにくいし、 ライトがキャッチャー付近に付くのもとても 考えにくいです。つまり一人一人の立つべき位置が、 サッカーに比べて決まっているのです。選手がどの位置にいるかで、ポジションは 見当付きます。(ただシフトは除く。)

選手の位置がある程度固定されていると、位 置だけである程度敵味方の区別がつき、 相手と自分のチームを色で区別する必要性は薄くなります。 わざわざ色で区別しなくてもいいのです。(ま ぁある程度は必要だけど、サッカーほ どではない)また野球は守備は9人いますが、 攻撃は1人〜4人です。これも区別の不必要性が増大する理由です。

位置が固定:野球、バレー、卓球など

選手の位置が固定 → 敵味方の区別は位置で分かる → 敵味 方を色で区別つける必要性が薄い。

位置が変動:サッカー、ラグビー、バスケなど

選手の位置が移動 → 敵味方の区別が位置では分か りにくい → 色で区別する必要性がある。 

2.派手なユニフォームにしたくてもしにくい伝統があるから。

たとえ選手の位置がある程度固定されているスポーツでも、 その気になれば派手なユニフォームはいくらでも作れます。 色で区別する行動が起こっても全然おかしくありません。 バレーが好例ですし、個人スポーツですが卓球もそうです。

サッカーみたいな派手なユニフォームが、野球では中々ないが、 なぜだろうか?

「野球らしくなくなるから」と言えばそれまでだが、なぜ野球の ユニフォームは白や薄い色ではないと、野球のイメージが壊れる のだろうか?

野球は明治時代にアメリカから伝わってきましたが、最初に野球を知ったのは 上級学校のエリート学生でした。そして学生は、エリート高校(一高など)の本場 アメリカの人物から、野球を教わったのです。

エリート学生が野球を知ったとき、野球に自己開発への精神的 な効果を求めました。野球を知る前に彼らがやっていたスポーツは、柔道や 剣道などがあり、個人スポーツばかりでした。

それに対して、野球は個人プレーが連続しながら、ゲームとして はチームで行われ、こうした団体性を持ったスポーツは、彼らは これまでに経験していませんでした。他人との協調、忍耐、自己犠牲、 秩序などの要素もあり、第一このスポーツは目新しかったので、学生たち のエリート意識が結びついたのは当然のことでした。武道のキーワード である「精神論」が野球に結びついて、勝利主義と精神主義を象徴するもの になるのです。

学生にとって野球は、「精神を素養するもの」「勝つことを目的としたもの」 という考えが強くなり、とてもエンジョイできるものではありませんでした。 いやエンジョイなんて絶対に許されません。ここで、エリート学生の高揚振りを 紹介します。

「野球競技の真精神は知育、徳育の涵養にある。即ちゲーム・ワークにおいて 知徳を、動作において体育を養うのである。学業を励むということと精神的に体 育の発達を図るということの二つは学生の本義である。勝負はどうしても勝 たねばならぬ。石にかじりついていても敵に打ち勝つという精神を働かし 奪うべからざる熱烈と屈せざる奮励を以ってこれに向かうところに一切の 尊い意義が含まれる。」

「野球の競技が単なる娯楽や遊戯ではなく、青年修養の一術として 許されるべきとなす以上、高く輝く勝利ということはどこまでも 絶対的神聖のものとしてこれを尊重し、これを渇仰しなくては ならぬ。」

更に更に当時の超エリート学校である「一高」の応援歌が 殺伐としていてすごいです。

花は桜木 人は武士
武士の魂そなえたる
一千人の青年が
国に報ゆる其の誓い

誓いは固し 片町の
向ヶ丘に 築きたる
高き高等学校の
誉は世にも ならびなき

智徳兼備の 第一と
世にも名高き 甲斐ありて
富士の高嶺に 比ぶとき
節操義烈 勇ましく

なおこの上に とぎ磨き
月日に励む 腕力は
撃剣柔術柔槍や
ベースボールにボート会

詩だけでも相当殺伐しているのに、この応援歌を、学ラン着ている 野郎だけで歌うんだから、怖いですね・・・。(応援団をイメージすると わかりやすいかも。)

やがて野球は、エリート学校から、中学校へ伝わり、さらに小 学校へと下って、やがて子供たちの遊びにもなったのです。 野球はエリート校の頂点から始まり、やがて下へと伝わった のです。このように上意下達に物事が伝わる現象を、 トリクル・ダウン現象 (滴下現象,トップダウン現象)と言います。 トリクル・ダウン現象によって伝わった物事は、上の思想を含みながら 、下に伝播しやすいです。少年野球や甲子園など、今でも 野球は、勝つことを第一に考えたり、精神素養のツールに 使われたりすることがしばしばあります。

トリクル・ダウン現象の特徴が、浮き彫りになっている例として、少年野球の干渉問題 や高校野球の上下関係問題、あと高校野球といったらクリーンなイメージ、 さわやかなイメージがあるなど、たくさんあるはずです。キーワードは『支配性』 『精神』です。このことについて深く突っ込むと、カラートピックスでなく なるからやめます。

野球の話になってしまいました。二号館に書くべきですね。さてここまでくれば、 なぜ野球のユニフォームの色の幅が狭いかが、見えてくるはずです。 「ユニフォームを派手にするなんて、そんなチャライことできないよ」って 思想があるからです。その思想の背景は、野球に対する精神主義です。 柔道着の色が白ばかりなのも、このような精神主義があるからです。野球の ユニフォームも白が主流ですね。

白は、昔は「素」と書かれていました。今は白と言うと真っ白な白を指すことが 多いです。しかし昔は漂白技術が未熟で、真っ白な白を作るのは容易ではあり ませんでした。「素」と言うのは、何も染まっていない純粋な状態を指します。 つまり色に染まっていない純粋な状態を、昔は「しろ」と読んでいたのです。 ちなみに今でも「しろ」を素の意味で使っています。それは「素人」です。 また「告白」「白状」「潔白」をする場所は「お白砂」です。このように白は 「純粋な状態」「隠し事がない状態」を指すこともあります。

「純粋な状態」をあらわすのに白は絶好のツールです。そのため、精神主義が キーワードのひとつになっている柔道や野球は、ユニフォームに白が使われたと 思われます。

白→純粋な状態,隠し事がない状態→野球や柔道はそれらがキーワー ド→ユニフォームとして白が使われる。

■ まとめ

チームプレイスポーツは、敵味方を判別しやすくするために、 色で区別をつける。しかし同じチームプレイスポーツでも、野球は ユニフォームの色の範囲が非常に狭く、サッカーは様々な色の ユニフォームがある。なぜ野球のユニフォームの色の幅は狭いのか? その理由は、以下のようになると思われる。

1. 野球は敵味方の選手の位置がある程度決まっているから。 そのため色で区別をつける必要性がサッカーに比べて薄い。

2. 野球のユニフォームの色を派手にすることに抵抗があるから。 (⇔白以外の色にすることは伝統に反するから。) 日本の野球は、精神主義や武道と結びついて独自の発展を 遂げ、トリクル・ダウン現象として大衆に広まったのが、背景だと 考えれれる。また白は「純粋な」「隠し事がない」というイメージがあり、 精神主義をあらわすために、野球のユニフォームは白になった思われる。

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