4-1 日本の色彩史1

■ 天然染料による染色

合成染料が発見され、日本に入ってくるまでは天然の染料による染色が 長い間行われていました。しかし天然染料はそう簡単に染めることはできません。 鮮やかで濃い色に染めれば染めるほど、めちゃくちゃコストがかかります。

現在とはえらい違いですね。現在はカラフルな服や絵の具があふれていて、 手軽に買うことができます。私たちがカラフルな生活を可能にしたのは、合成染料や 合成顔料のおかげといっても、過言ではありません。色彩の歴史を見るときに重要 ポイントは、「濃い色を得ることは楽なことではなかった」ことを認識しておく ことです。とりわけ鮮やかな紫と赤は、「権力の象徴」になりやすいです。 なぜなら天然染料だけで、濃い紫や赤を染めることは、とてつもなく手間が かかったからです。

たとえば、紅花で濃く染め上げた色を「紅は八潮の色」と呼びます。 ここで八潮というのは、「八回染める」という意味で、濃い紅色を染めるには、 ものすごく手間がかかることを物語っています。紫の服は、紫草を使って染め ましたが、ちょっとの紫の染料を得るのに大量の紫草が必要で、 濃い紫色の服は身分の高い人しか着ることができませんでした。

それでは庶民はどんな色の服を着ていたのでしょう?多くの場合、黒っぽい色や くすんだ色、淡い色を着ていました。 日本の伝統的な色を大まかに分けると、 華麗な色と質素な色があることが分かります。

華麗な色:身分の高い人

質素な色:一般庶民

■ 奈良時代

染色方法は、奈良時代に中国から伝わりました。染料の例を列挙すると 下のようになります。もちろん全部天然染料です。

赤:茜、蘇芳、紅花
黄:刈安、くちなし
青:藍
紫:紫草

赤、黄色、青の染料があれば、このうち二種類の色を掛け合わせることにより、 さまざまな色を作ることができます。たとえば緑に染めるときは、刈安(黄 色)と藍(青)の二つの染料を使って、染めていました。

推古天皇の時代、聖徳太子は「冠位十二階」を定め、最高位には紫をあてました。 冠位十二階は、位の高い順から徳(紫)、仁(青)、礼(赤)、信(黄)、義(白)、 智(黒)の六階を、さらに「大」「小」に分けて、十二階としていました。

このように身分によって厳しい色の規制があったのです。とりわけ濃い紅色や 紫色は、染めるのに莫大な費用がかかるため、禁色になりやすかったです。 しかしそれでも、位の低い役人は、禁色に対する憧れが強く、 禁色を犯す者があとを絶たなかったため、一部の淡い色(例:薄 い紫、薄い赤、薄紅色など)の着用が許されました。

禁色:きんじき、禁じられた色(身分が高いものしか着ることができなかった色)
当色:とうじき、自分の位の色
聴色:ゆるしいろ、許された色(身分が低くても着ることができた色)

支配階級でさえ、このような色彩の規制が厳しかったので、庶民はドングリ (黒色)や樫、楢など、身近に手に入る安価な材料を使った地味な色しか 許されていませんでした。

ちなみに冠位十二階の色の由来は、中国の哲学的思想「五行説」からです。 五行説では、「万物は、木・火・土・金・水の五元素によって構成されている」 と考えています。各元素には、色や方角,時間などが 当てられました。

 
季節 土用
  青春 朱夏   白秋 玄冬
方角 中央 西
守護者 青龍 朱雀 白虎 玄武

五行説に紫がないのは、紫は間色で卑しい色と見られていたからです。 しかし孔子の時代に、西洋から帝王紫の思想が中国に入ってくると、 紫は「五色」を抜いて最高の色になりまし た。このようにして紫は最高の色として日本に伝わったのです。

■平安時代

平安時代は貴族文化の時代です。奈良時代では、位階によって色彩が厳しく制限 されていましたが、平安時代になると位階による着用の制限はゆるめられました。 そして平安時代は、源氏物語や枕草子、古今和歌集など、文学の面でも華やかな時代でも ありました。色の表現にも、文学的な色名が目立ち始めました。また色だけでなく、 この時代の貴族たちは配色にも名前をつけています。それが よく現れているものは、なんといっても重ねの色目です。

重ねの色目は、日本最古の配色マニュアルであり、男女を問わず 貴族たちの装束の色あわせに使われていました。重ねの色目で最も一般的なのは、 衣類における、表地と裏地の二色配色です。十二単のように、何枚も重ね着する場合の 配色もあり、この配色形式を襲ねの色目と言います。重ねの色目は二色配色で、 襲の色目はマルチカラー配色ともいえるが、両者の定義はかなりあいまいな場合も あります。(両者をひっくるめて、「かさねの色目」と呼ぶ。)

重ねの色目は200を超える種類が伝えられており、それぞれに名前が つけられています。四季折々の植物や風物を借りた名前が非常に多いです。 たとえば表地は赤、裏地は白の着物の配色は、「桜重(さくらがさね)」 と呼ばれています。

また重ねの色目には、季節によるセオリーがありました。「桜重」は、 桜をイメージするので、春に着るのがふさわしいです。このセオリーは かなり重要で、これを破るとセンスが悪いと見られるこ ともありました。

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