30 むすび

いかがでしたか?神話をはじめて読んだ方も、ギリシャ神話や聖書を読んだことがある方も、北欧神話の殺伐さには、驚愕するかもしれません。血が流れるのは当然のこと、そこには楽園というものは全くありません。ギリシャ神話のような暖かさは、全く感じられません。

ギリシャ神話はあたたかい南国の太陽のもとに人間的な姿で活躍している神々を描き出しているのに対して、北欧神話は寒冷な気候の中で殺伐とした戦いをしている神々を描き出しています。もちろんギリシャ神話にも戦いはたくさんありますが、北欧神話には楽園みたいな物語はほとんどありません。

たとえ一部がキリスト教の影響を受けても、北欧神話にはゲルマン人の精神がいっぱい詰まっています。

過酷な運命を背負っても、あくまで逞しく生き、立ち向かい、争い、恋をし、死を恐れない。ゲルマン人の信仰や生き方が大変良く表れています。

ヨーロッパ文化の源泉は主に三つあります。一つ目はヘレニズム、二つ目はヘブライズム、そして三つ目はゲルマニズムです。もちろん北欧神話はゲルマニズムの源の一つです。ヘレニズムの源はギリシャ神話、ヘブライズムの源は聖書です。

神話の資料をたくさん残す条件は、「文字を獲得すること。」と「文字で記録を残す習慣を持つこと。」の二つだと思います。文字があると、書物として残すことが出来ます。書物を残すと、未来の人にも自分の思想や物語を、伝えることができます。(焼かれるとゲームオーバー)他に口伝という手段もありますが・・・・。

ギリシャ神話と聖書はこの二つの条件を満たしていたので、資料は今でも星の数ほどあります。

しかしヴァイキングは、ルーン文字を持っていたものの、文字で記録を残す習慣がありませんでした。自分たちの記録は、口伝という形で伝えられていました。

「文字で書物を残す」という習慣が生まれたのは、キリスト教徒が北欧やアイスランドに侵入し、ヴァイキングがキリスト教に改宗してからです。(大体、12〜13世紀ぐらい)

彼らが古代の神話や物語を残そうと努力したのも事実です。その結果、新エッダや古エッダ,サガなどが生まれます。とくに孤島アイスランドには、素晴らしいほどの神話や物語が残されました。理由はここでは省略します。

しかしギリシャ神話や聖書に比べて、北欧神話は資料の数が圧倒的に少ないです。もともと文字で記録する習慣が無かったから、それは仕方が無いことです。

北欧神話は、ゲルマン人の世界の一部を見ることが出来ます。しかしあくまでも一部です。

ゲルマン人を戦いだけでくくるのではなく、もっと別な面にも注目して欲しいと思っています。例えば、ゲルマン人の社会や法律、経済、文化、信仰、生活など。多角的な面を見るなら、「サガ」を薦めます。実は文字に残された書物は、神話よりもサガの方が、遥かに多いのです。娯楽の少なかった中世アイスランドでは、「サガの朗読大会」もあったんですから。

まぁ興味のある人は、サガにも目を通してみてください。きっと後悔はさせません。「ちょっとなぁ」と思う方は、概説書を読むのも一つの手です。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。少しでも北欧神話が好きになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。最後に・・・

「北欧神話の世界は奇妙な世界だ。神々の国アースガルドは人間の空想した他のいかなる天国にも似ていない。そこには何の喜びの輝きは無く、幸福の保証はない。それはその上に避けがたい破滅の脅威がのしかかっている深刻厳粛な場所だ。神々は知っている、いつか彼らの滅びの日が来ることを。いつか彼らは彼らの敵を迎えて、敗北と死の中に没しなければならないだろう。善の力の悪の力に対する防戦は絶望的だ。にも拘わらず、神々は最後まで戦うであろう。人類にとってもこのことは同じでなくてはならない。もし神々が終局的には悪に対して無力だとしたら、人間にとっては一層そうであるにちがいないから。」

と、アメリカの神話学者エディス・ハミルトンは言っているが、北欧神話の特徴を良く表していると思う。

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